シアル化されたムチンが花粉から目を守る!その仕組みを研究結果をもとに解説
花粉症でくしゃみや鼻水に困る方は多いですが、目のかゆみや充血、涙が出るといった症状もとても厄介ですよね。のどや鼻のようにマスクでしっかり防御できるような場所でもないので、どのように予防すればいいのか悩んでいるという方もいるでしょう。 実は最近の研究で、目を花粉から守る体の仕組みが明らかになってきています。今回は、ムチンと花粉症の関係について、研究結果を踏まえて詳しく解説します。
ムチンとは?
ムチンとは、動物の体内に存在するタンパク質の一種です。粘液を構成する物質でもあり、気道や消化管、唾液腺などで生産される粘液などにムチンが含まれています。そして、粘膜の表面を守るために重要な役割を果たしていると考えられています。 また、目においては、結膜(白目を覆う膜)の杯細胞と呼ばれる細胞から粘液が分泌されており、ここにムチンが含まれています。
ムチンには目の表面を守る機能がある!
目の胚細胞から分泌されるムチン(ゲル形成性ムチン)の表面には、糖鎖がたくさん存在しています。 糖鎖とは、糖が鎖のようにつながった物質のこと。人間をはじめ、動物の体内で生命維持においてとても重要な働きをしていると言われており、免疫機能の維持・向上にも欠かせないと考えられています。そして、ムチンの表面に存在する糖鎖が、水分を引きつけ、目の表面をうるおすといった、目の表面を守る働きをしているのです。
シアル化されたムチンが花粉粒子を効率よく捕まえる!
これまでにも、ゲル形成性ムチンには、目に入った異物や細菌、ウイルスなどを排除する働きがあると考えられてきました。しかし、花粉症などの目におけるアレルギー症状に関する働きはわかっていませんでした。 それが、最近の研究によって、ゲル形成性ムチンのシアル化糖鎖が花粉などの粒子を包み込み、排除する機能を高めることがわかったのです。シアル化糖鎖とは、糖鎖の先端にシアル酸という糖が結合したもののことです。 マウスを用いた実験を行ったところ、シアル化糖鎖を持つムチンが、目に入ってきた花粉を効率よく捕まえ、カプセルのようにゲル状の被膜で花粉を包み込んでいることが確認できました。花粉症のマウスにおいて、ムチンをシアル化できるマウスは、花粉症の発症が抑えられることもわかりました。これらのことから、ムチンのシアル化糖鎖が花粉症の抑制につながると考えることができます。 なお、この作用にはSt6galnac1酵素という酵素がかかわっていることも判明しました。St6galnac1酵素はシアル酸を糖鎖に移し、シアル化糖鎖を合成する酵素です。特に目や腸管に多く存在しています。 さらに、人間においても、刺激や炎症が慢性的に続く病気があると、St6galnac1酵素やシアル化糖鎖が増えていることがわかりました。つまり、人間には、病気に対応するためにシアル化糖鎖を増やす能力が備わっていると言えるでしょう。
花粉のみならず、細菌・黄砂にも効果がある可能性あり!
シアル化されたムチンは、目に入ってきた花粉を効率よく捕まえ、カプセルのように花粉を包み込むことはすでに説明した通りです。しかしこれは花粉だけでなく、黄砂などの微粒子に対しても有効である可能性が考えられています。 また、このカプセルは細菌を通さないとされているため、細菌に対しても何らかの効果が期待できるかもしれません。
ムチンの糖鎖をコントロールできれば治療などにも活用できるかも!
St6galnac1酵素がシアル化糖鎖を合成し、シアル化糖鎖を持つムチンは目に入ってきた花粉を効率よく捕まえ、カプセルのようにゲル状の被膜で花粉を包み込むということがわかりました。このことから、シアル化糖鎖を持つムチンは花粉症の抑制につながると考えることができます。 今後の研究次第では、この仕組みを使って新たな花粉症治療が確立されるかもしれません。花粉症に悩んでいる方は特に、今後の研究にご期待ください。